14 January 2015

オデンの少年たち

確か高山なおみさんの著書だったと思うのだが、こんな一説があった。

「旅行をしているといろんな人に会う。そのとき自分はどのように自分のことを自己紹介するのかなって。それを確かめに行くんだ」

この間北欧に旅行に行ったとき、私はいくつかの国と土地をまわった。
旅の終盤でストックホルムに何日か滞在したのだが、
そのとき、私は普段は滅多に吸わない煙草を無性に吸いたくなってしまった。
そこで一緒に旅をしていた友人と、もう夜だったが、
近くのコンビニエンスストアまで煙草を買いに行った。

滞在していた町はストックホルムのオデンプランという場所で、
そのとき行ったコンビニエンスストアの名前はオデンだった。

店で適当にAmerican Spiritとライターを選ぶと、
横から友人が「これもお願い」と言って、
グミやらジェリービーンズやらをいれた紙袋をレジに持って来た。
一緒に買おうとすると現金が足りなかった。
欧米はクレジットカード社会なので、私も躊躇わずにカードで支払おうとすると、
レジに立っていた強面のアラブ系のおっさんが、不機嫌そうに何か言ってくるのだが、
英語が喋れないらしく、何を言いたいのかわからない。

強面のおっさんは私たちに言いたい事が伝わらない事がわかると、
イライラした様子で奥の部屋に向かって誰か呼んだ。
すると、中から若い少年がのっそり出て来た。体は大きいんだが、顔は少年だ。
その割には落ち着いた感じで、常に微笑んでいる感じの顔をしている。
少年のスポーティなジャケットとニット帽を着てる感じが、
昔住んでいた、イングランド、ニューカッスルのチャブの子達を思い出させる。

少年は英語が話せるらしく、店主の言うことを通訳してくれた。

店のカード読み取り機が今壊れていて、現金しか受け付けないとのことだった。
私の友人は財布を持って来ていなかったし、
グミは諦めて煙草だけ購入しようとすると、
店主はまた気難しそうな顔をしながら、つたない英語で「IDを見せなさい」
と言ってくる。
これにはビックリした。イギリスで学生をしていた時は
たまにIDを求められる事はあったが、30歳越えてもまだ言われるとは。
アジア人はやっぱり若く見られるのかな。

「無駄だとわかってるけど日本の免許証を見せるよ、ホラ」
とか言いながら免許証を見せると、案の定少年は「あ〜それじゃわかんないや」
とか言いながら隣の別の少年と笑っている。
店主のおじさんはずっと気難しい顔をしている。

私が、「いや、ホントに自分は31歳でさ」とモゴモゴ言っていると、
少年は笑いながら隣の店主に何か言い始めた。
スウェーデン語は全然わからないんだが、
そのとき彼が言っている内容はわかる気がした。

「多分、彼は本当に31なんだよ、煙草の一箱くらいいいじゃないか」

多分そんなことを言ってくれていたのだと思う。
店主が不機嫌そうに何かボソッと少年に言うと、
彼はこちらを向いて値段を言ってくれた。私がお礼を言いながらお金を払うと、
彼は「うちの店がカード使えないのが悪いから、気にしなくていいよ。きっとライターを買うお金もないんだろ?じゃあ火を貸してあげるよ」

私たちは店の外で一緒に煙草を吸った。

店の外で、その少年ふたりと煙草2本分の時間、話をした。
少年達はいろんなことを聞いてきた。

どこからきたの、なんで英語喋れるの、なんの仕事してるの、
ストックホルムのことはどう思う、スウェーデンの女の子についてはどう思う、
俺たちの英語ってアメリカ英語だと思うか。

こうやって聞かれる事が、私はとても嬉しかった。
嬉しかったので答えるのも楽しかった。

こんな直球で大人は色々聞いてこない。少年だから純粋な興味で溢れんばかりで、それなのにどこか成熟している雰囲気も漂わせながら。
新しい人と出会う、というのはこういうことだと思った。
互いの国について無邪気に聞いたり話したり、
知らないから尋ねたりするんだ。そして自分のことを話すのだ。

私は、スカンジナビアの女性は本当にきれいだと言った。

私が彼らの年齢を聞くと、18歳とのことだった。
別にこのお店で働いているわけではなくて、あの店主が友達だからいただけとのこと。

別れ際に少年が「これ持って行きなよ」と言ってライターをくれた。私にとって、この北欧旅行の一番の思い出はこの時間だった。